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8-19 労いの言葉 1

last update Last Updated: 2025-06-01 21:06:33

 朱莉は今、修也と一緒に二階堂夫婦の結婚式が行われたホテルの1Fにあるカフェにいた。

蓮は朱莉が持参したベビーカーの上でぐっすり眠っている。

辺りを見渡すと、カフェには他にも披露宴会場で見かけた人々が何人も来店していた。

一番奥のテーブル席に朱莉と修也は向かい合わせに座ると、修也は立てかけてあったメニュー表に手を伸ばし、中を開いた。

「朱莉さんは何を飲みますか?」

ニコニコと笑みを浮かべながら修也は朱莉にメニュー表を差し出してきた。様々な種類のコーヒーがあったが、朱莉は無難なものを注文することにした。

「そうですね。ではカフェ・ラテにします」

朱莉はメニュー表を修也に渡した。

「それじゃ、僕はカフェ・モカにします。あ、すみません、注文よろしいですか?」

そこへ丁度近くにいた女性店員を修也は手を挙げて呼ぶと、2人分の飲み物を注文した。

「すみません。カフェ・ラテとカフェ・モカをお願いします」

「はい、かしこまりました」

女性店員が頭を下げて立ち去ると、早速修也は朱莉に話しかけてきた。

「どうですか? 翔とはうまくやっていけていますか?」

「え、ええ……そうですね。翔さんは育児にも積極的に協力してくれていますよ」

朱莉は質問に答えながら思った。

(各務さんは私と翔先輩が契約結婚の関係っていうことは知ってるのかな?)

だけど、自分からは契約婚のことを言い出せなかった。

「そうですか。翔は子供が好きだったんですね。でもそれは良かった、安心しましたよ。ああ見えて翔は意外と子煩悩だったのか……何か意外でしたよ」

そして優し気な瞳でべビーカーで眠っている蓮をじっと見つめた。

「あの……翔さんの秘書をするまでは何をされていたんですか?」

「鳴海グループの色々な企業で働いてきましたよ。会長に多岐に渡って仕事が出来るように覚えろって言われて海外支社で働いていたこともありましたし。でも流石に秘書の話が来たときは驚きましたけどね。会長直々に指名してきたのですけど翔に受け入れて貰えて安心しました」

「え? 受け入れて貰えて……って?」

「実は過去にちょっとしたトラブルがあって高校を卒業してからはずっと疎遠になっていたんですよ。翔と再会したのは実に10年ぶりで……」

何故か言葉を濁しながら修也は語るので、朱莉はそれ以上尋ねることはしなかった。

(誰にだって、言いにくい話はあるものね。翔先輩も
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